ダメンズウォーカーと呼ばれて
知ってる方もいると思うんですけど、だめんず・うぉーかーていう言葉がはやった時期があるじゃないですか。漫画家の倉田真由美さんが描いたエッセイ漫画。
あれ、まさに私のことです(笑)。だめんず=ダメな男、ばかりにあたってしまうという。殴られたり、金をせびられたり、くだらない嘘をつかれたり。とにかく「だめんず」とばかり付き合ってきました。
子供が二人いるんですが、二人とも父親は違います。離婚歴2回です。1回目は夫のDV(家庭内暴力)。2回目はDV&借金。フルタイムのパートと色んな手当と実家の援助で生活してきました。
そして、ようやく下の子が高校を卒業し家を出て、暮らしに少し余裕がでてきたなあと思っていた頃に、私の状況にも変化がありました。
パート先の”上司”との間におきた「小さな変化」
今の職場は5年目です。入社したときは、昼にランチ、夜はバーをしているお店だったのですが、コロナで閉店し、今は在庫のお酒をオンラインで売っています。
5名いたスタッフもコロナで辞めていき・・・私と上司(社長)だけになってしまいました。求人も出していますが、入ってもすぐに辞めてしまいます。
スタッフが続かない理由は簡単。その上司がね、少し癖のある人なんですよね。すごい潔癖ですし。仕事も、例えばウィスキーの梱包の仕方が自分のやり方と違うと、スタッフを激しく罵ったり。かと思うと、親の介護をしているスタッフに「この間、お母さん大丈夫だった?」と気遣いをみせたり。感情の起伏が激しくて、周りに気を使わせるタイプ。
要するにダメンズです。仕事はできるんですが社会人として。そしてこういう人、やっぱり独身なんですよね。40代後半ですが、未婚らしいです。
その上司ともう4か月間、二人だけで仕事をしています。仕事場はバーに机やパソコンを置いて事務所にしているんですが、段ボールに入ったお酒もたくさん積んであるので、直射日光をさけるために、いつもブラインドを落としています。薄暗い部屋で、もくもくと写真を撮ったり、出品作業をしたりしています。
この上司が最近、勤務中に私とお酒を飲みたがるようになったんです。
お酒が入ったボスがみせた、意外な一面
きっかけはこんな感じ。「あさ美さん、このお酒飲んだことないでしょ。味見してみる?」勉強だからと言ってスポッと栓を抜く。で、グダグダと先日揉めたお客様の悪口を言いながら飲むんです。 お酒が入ると本音がでてきますね。「当初の予想より売れていなくて不安になる」「バーもまた開けようと思っていたけど、無理な気がしてきた」「このあいだ面接来た子、採用したのに断ってきた」。ネガティブな男性だと思ってはいましたが、ここまでネクラで弱気なやつだったとは。
私はお酒が好きなので、飲むのは嬉しいですし、愚痴もつきあいますが、相手は「ザ・気分や」でしょ。気が抜けないわけですよ。「全てはあなたが未熟なダメンズだからですよ」とは言えませんしねえ。
ただ気に入った部分もありました。まずは「素直じゃん」ということ。強がっているときより、よほど可愛げがありました(笑)。もう1つは「お酒の注ぎ方がいいじゃん」ということ。彼は元バーテンダーなので所作がキレイ。ちょっといいお客さんとして扱われているような気分になれました。いいところも持っている人なのね、という小さな発見があったのは良かったんじゃないかな。
倉庫でおきた”事件”
売っているお酒は、バー時代の在庫なんですが、特にウィスキーを多く扱っています。ウィスキーは古い方が価値があるという世界なので、ウィスキーマニアの上司は大量にコレクションしてるんです。倉庫を借りて、ガンガン冷房きかせて(経費がかかるんですが)保管しています。
この間、上司がこの倉庫で倒れていたんです。連絡つかないなあ、と思って倉庫に行ってみたら、脚立にもたれかかり、気を失っていました。びっくりです。救急車です。生まれて初めて救急車に乗りました。救急隊員さんに「あなたは誰ですか」と聞かれ「社員です」と答えましたよ。
初めて会った上司の母
病院ではただの疲労と言われ、すぐに帰宅しました。自宅までタクシーで帰るのに、私も同行しました。
初めて上司宅へ行ったのですが、普通のアパート。高齢のお母様が出迎えてくれました。会うのは初めてです。ダメンズの母とは思えない、きちんとした方でした。お母様、可哀そう。一生懸命育ててきたんだろうに、と思いましたね。私も母ですから。
突然のプロポーズ?
それでその日は失礼したんですが、次に出勤したとき、上司の態度が今までと違うのです。なんかこう、少年っぽいというか・・・。以前は「すごい男だとみられたい」「俺はできる社長だ」「俺に従え」みたいな「崇められたい願望」が強い人だったのに。
「いやあ。まじ助かったわ。ありがとうございます。さすが、あさ美様。お袋も命の恩人!って言ってたさあ」と、にこやかに言います。そしてびっくり発言を。
「うちのお袋が、あさ美さんと結婚したら?っていうのよ。ええ~ってなるっしょ?でもそーか。あさ美さんでもいいだよね、って思ってさ」
実はあんまり驚きませんでした。過去にも似たようなことがあったから。
ダメンズのダメぶりは周囲の女性にもたいていよく認識されているんです。そのダメンズと辛抱強くつきあえる女性(私のこと)が現れると、体よく押し付けるという。この流れで私は何度かダメンズを掴まされました。「はい。あなた、この男担当ね。よろしく」みたいな。私も悪いんです。「私ならできる」と思ってしまうんですよね。でももうコリゴリでした。
「私はバツ2ですよ。申し訳ないな。こんなおばさん」。一応、丁寧にお断りをしたつもりでしたが。
予想外の展開。事務所に現れた人とは。
それから数日後、上司のお母さまが突然事務所に現れたのです。とっても驚きました。私はランチのために事務所の外に出ました。そしたら声をかけてきたご老人がいたのです。先日お会いした上司のお母様でした。
誘われて、小ぎれいなお蕎麦屋さんでお昼をご馳走になりました。「あさ美さんにはとても感謝しております」と始まって、要するに息子との結婚を考えてもらえないかと直談判しにいらしたのでした。うつむき加減で、申し訳なさそうに、切々とお話しなさる姿が印象的でした。
そしてこの時はなぜか、はっきりと、断れなかったんです。
三度目の結婚を決めた理由
そしてしばらくして、結婚しました。それはもう大変、驚かれました。
頭を下げるお母様の姿が脳裏から離れなくて、私はまた思ってしまったんです。「私ならできるかも」って。
自分でも「またやっちゃった」と思います。しかし二度失敗しているので、三度目の失敗もいまさら怖くありません。慎重に考えてもダメなときは駄目、うまくいくときは行く。どーにでもなれという心境です。
子供たちも「好きにすれば」という反応でした。もっと複雑な胸の内を吐露されるのかと思っていたのですが・・・離婚歴のある母をもっていると達観するのでしょうか。それとも自分の人生が大切で親のことなんてどうでもいいのでしょうか。
現時点では何も変わっていません。私は夫となった上司と相変わらず事務所で作業する日々。彼のアパートは狭いので、新しい物件を探している段階です。
お母さまと同居することになっています。将来介護をするのかは分かりませんが、亡きお父様は施設に入っていたそうなので、お母様にも入ってもらおうと、ぼんやり思っています。
会社の売り上げは以前より気にするようになりました。ウイスキーの価格変動をめっちゃ勉強しています(笑)。私のリアルマネープランに関わることですから。夫にはいえませんが、お金が必要になったら、このウィスキーをたたき売ってやろう、くらいの気持ちでいます。
前向きにダメンズウォーカー
男も結婚もやってみなければ分からない。ダメンズウォーカーとして私が学んだことです。案外この生き方で良かったのかもと、三度目の結婚を通して、ようやく思えるようになってきました。
実は私こそが、ずーっと自分のことをダメな女だと思ってきたんです。しかし何でも極めればプロ。なんせ三度の、ダメンズとの結婚です。でもいいのです。強く明るく楽しく飲んで、前向きに日々をすごせれば、私は幸せな人生を歩んだんだ、と思えるような気がしています。
今日も仕事が終わったら、ご褒美ウィスキーを一杯、デザートに飲もうと思います♡