一人暮らしに感じる寂しさ
54歳で夫を亡くしてからはずっと一人暮らしです。夫は10歳年上だったので、結婚する時も「一人の時代が長いよ」と周囲の人に釘をさされましたが、その通りになりました。
今70歳ですが、子供も孫もいますし、金銭的にもやりくりしてなんとかなっていますので、幸せだと思います。
ただやはり、寂しさというのはぬぐえませんね。子供たちも自分の家庭が第一だし。「おばあちゃんはどうする?」とひそひそと私のことを相談しているのを聞いたりすると、邪魔に思われているな、と感じることもあります。台風だの地震だの、災害がおきたときは「独り身のお年寄り」という状況がいっそう重く感じられます。
再婚を子供たちに反対されて
社交的な性格だと自分では思っています。特に夫が亡くなってからは積極的にお友達をつくるようにしました。色んな趣味の会に入りましたね。野鳥の会と弓道は今も続けています。
そこで知り合った男性と再婚話が持ち上がったことがあるんです。まだ私も50代だったので、前向きに進めようとしたら子供たちに反対されて。当時は子供たちも独身だったり20代だったりしたので、心の準備ができていなかったのかもしれません。
子供なんて勝手なものです。自分はさっさと新しい家庭を築くのに、親にはいつまでも自分たちを一番に考えて欲しい。一人でそこにいてよ、って感じで。再婚したって子供が大切なことに変わりはないのにね。特にうちは息子だから、女性の老後に理解が乏しいのかもしれません。「せっかく結婚を考えて下さったのに、申し訳ないのですが子供たちが反対していて・・・」そんなことを言われたら、男の人はいい気分はしませんよね。その方とは疎遠になってしまいました。
そんな経験をして、再婚は難しいと考えるようになったんです。
趣味で知り合った男性と親しい関係に
それでも女であることをあきらめませんでした。だって先が長いんですもの。1日が本当に長く感じられて。
弓道教室は同年代の会員が多くて、教室の後お茶をご一緒します。顔ぶれは男女半々といったところでしょうか。ちょうど教室の近くに安くて長居できる茶店があるんですが、そこが私たちのたまり場。ほんの小一時間、あんみつやお抹茶を食べながら気楽なおしゃべり。ささやかな贅沢です。
私はHさんと親しい関係になりました。7、8年位前からです。他の皆さんには黙っていますが、この場所以外でも頻繁に会っています。
彼には奥様がいるんです。一度奥様との関係を聞いてみたことがありますが、彼は苦笑いしながら「妻はね、私がいないほうが幸せだから・・・」と言っていました。どういう意味でしょう?奥様とうまくいっているのかいないのか、私には分かりませんし、詮索しても仕方がありません。他人の家のことですから、彼に任せることにしました。
私のお家で一緒に過ごすことが多いです。夕飯を食べたり、お風呂を使ってもらったり。二人とも時代劇が好きなので一緒にテレビドラマも見ます。そして誰にも言っていない極秘事項ですが、ベッドをともにすることも・・・。時間をかけてゆっくりと肌を重ねます。私にとって今一番の癒しであり心の支えです。
でも彼は必ず帰るんです。夜9時には「失礼するね」と言って帰っていきます。
結婚にこだわらないという選択
Hさんと深い仲になったころ、結婚を意識した時期がありました。だって世間からみれば不倫ですよね?罪悪感があって・・・。でも彼は私と結婚するつもりは無かったようです。状況を変えるのは難しいと言われました。でもそれは私にしても同じことなんですよね。過去に子供たちに再婚を反対されたことがトラウマになっていて・・・。結局そのままの関係を続けて今に至っています。
でも彼との関係の中で、気が付いたことがあります。私が結婚という仕組みに囚われ過ぎていたということです。私は男と女は結婚すべし、夜の営みは結婚をしてからという教えの下で育ってきた典型的な昭和のお嬢さんでした。そして可笑しなことに、老女になってからも「中流のお嬢さん意識」が抜けていなかったんですね。
夫や息子たちの言い分に従って、事を荒立てずに生きてきた人生。それも悪くはないと思います。でも独り身の老女として、誰にも、家族にさえも、見向きをされない日々を過ごしているうちに、もっと自分の喜びを追い求めてもいいじゃないの、という考えがもたげてきました。
それが究極の形で現れたのがHさんとの夜の営み。自然とそうなったんです。本当に自然に・・・。Hさんは私より1、2歳お歳が下ですが、同年代として同じ空気をすってきた気楽さがあります。私が家族に囚われている価値観や環境も理解してくれるし、私には大切な人です。
夫ではなくボーイフレンド
大切な人ですが、家族の反応が心配なので、Hさんのことは誰にも言っていません。悪く言われたり、邪魔されたりしなくないですから。別に私のことをすべて子供たちに話す必要もありませんしね。家族、Hさん、Hさんのご家族、そして私の人生。全部バランスをとるために、今はあえて秘密にしています。
ただいつか、子供たちがもっと成熟したら、公にしたいな・・・という気持ちもあるんです。でも何事も、自分の都合で急いではいけませんね。
自分の狭い世界から一歩を踏み出して、Hさんはボーイフレンドということにしました。私はガールフレンド(笑)。友達として、弓道仲間として、茶飲み友達として、そして恋人として、状況に応じて変身するパートナーです。
Hさんに出会ってから、人生が一変しました。毎日の生活に張りがでました。ご飯だって、一人だと納豆とお味噌汁で済ませてしまいますが、今日はHさんがいらっしゃると思うと、3品くらいは作りますもん。玄関やトイレの掃除もします。ベッドもきれいに整えます。Hさんとそういう関係になってから、ネグリジェを買いました。そういうのもすごく楽しいです。
彼と出会えたこと、そして今の関係に感謝しています。昔思い描いていたよりも、俗にいうハッピーな老後を送っていると感じています。昔の私からは考えられない状況ですが、いくつになっても新しい生き方ができることを知ったし、そうすることによって幸せが転がり込んでくるんだな、と感じています。