57歳でついに結婚
今年は私にとって特別な年になりました。入籍したんです。お恥ずかしながら初婚です。持病があり結婚はあきらめていました。ずっと一人で生きてきましたし、これからもそのつもりでした。でも人生って分からないですね。急に私と結婚しようと言ってくれる人が現れたんです。きっかけは趣味の「神社巡り」でした。
神社巡り
もともと占いや風水みたいな神秘的なものが好きなのです。神社巡りは20代の頃に始めて、今では御朱印帳も10冊を超えました。仕事の合間をぬって、遠方の神社も訪れます。ちなみに仕事は普通に事務員です。
神社を訪れたら、作法としてその地域にお金を落とすようにしています。つまり買物をしたりお店に入って食事をしたりします。私の場合はランチを食べることが多いですね。
ある時、そば屋に一人で入りました。でも混んでいて「ご相席でもよろしいですか」となって。その時に相席になった人が、夫となる和也(かずや)さん(仮名)でした。
そば屋での出逢い
二人しか座れない小さなテーブルの向こう側とこっち側に、私と和也さんは座っていました。私はスマホで次の目的地である御池のことを調べていました。御池は本宮から離れたところにあり、行く道はいくつかあるようでした。私はそばを運んできてくれた店員さんに道をたずねました。
そしたらそれを聞いた和也さんが「池でしたら、駐車場の脇のルートがおすすめですよ」と教えてくれたんです。そのまま話がはずみました。どちらからいらっしゃったんですか?とか、この近くの〇〇神社には行かれたことありますか?とか。
和也さんを最初に見た時、少し年下かな?と感じました。中年らしい体つきで頭髪も薄くなっていましたが、まだ声が若いというか。声に年齢って出ませんか?そして行動力もあって。御池にも一緒に行ってくれることになりました。
御池での願い
この御池(おいけ)には小さな祠があって、ご利益があると評判です。私はいつも健康のこととお金のことを祈ってきました。もちろん恋愛成就を祈願したこともありますが、かなったことはありませんね・・・それが神様の答えなんです。
でもこの日、久しぶりに異性のことをお願いしてみました。「どうか、この親切にしてくれた男性とまた会えますように」。私は容姿もひどいので、親切にされることもあまりありません。彼が何気なく道を教えてくれ、一緒にここまで来てくれたことが本当に嬉しかったのです。
帰りのバスで
帰り道も和也さんと一緒でした。最寄りの大きい駅までバスで移動します。もう夕方でしたので、バスは1時間に1本まで減っていました。バスが来るまで、そして乗ってからも、私と和也さんはいろいろお話をしました。ほとんど神社の話ですが、和也さんはお詳しくて、おすすめの本も教えてくれました。私は普段あまり人と話さないのですが、和也さんの前では自然体でいられて、行ったことがある神社のことや好きなテレビ番組のことも、饒舌にしゃべっていました。
連絡先を交換
神社にいる時から気が付いていたのですが、浴衣の女性がちらほらいたんです。バスの中の広告をみて、今日は地元で花火があるのを知りました。私たちが駅に到着すると、ぼんやりと暗くなっていて、遠くで花火が上がるのが見えました。
バスから降りた和也さんが、カメラを空に向けて写真を撮りました。チラリと見ると、その画像のキレイなこと。私のスマホと撮影技術では夜空の花火をあんなに鮮やかには撮れません。
見られているのに気が付いた和也さんが「よかったらお送りしますよ」と言いました。そして私たちはラインを交換したんです。「和也と申します。カズナリではなくカズヤです。今日の記念にどうぞ」というメッセージと一緒に、小さいけれど鮮やかな花火の写真が送られてきました。
趣味友として
それからもラインで連絡を取り合いました。私は男の人に馬鹿にされたり、弄ばれたり、いい思い出はあまりないので、信じすぎないようにしましたが、彼には信頼できるものも感じていました。
最初は趣味のお友達です。そして次第にお互いのこと、神社巡りを始めた理由や、仕事、家族のことを話して、少しずつ距離を縮めていきました。
彼のお母さんに会って
和也さんは父親から引き継いだ小さな不動産会社を経営していました。不動産屋はなんと曾祖父の代から続いているそうで、地元の皆さんとの繋がりが彼の財産。お土地や空き家やアパートを貸すお手伝いをしています。
なんとなく、真剣交際の段階に入った頃に、自宅に招待されました。彼のお家は二本の道が合流する三角地にありました。風水上はあまりいい場所ではありません・・・。風呂無しで、歩いて20分の銭湯を利用しているとのこと。その三角地に立つ古い戸建ての家の、畳の上で「結婚して下さい」と言われました。もちろんOKしました。こそばゆいような、恥ずかしいような。年甲斐もなく乙女な気分になりました。
彼のお母さんは近所のアパートに住んでいらして、彼が電話をすると、私に会うために来てくれました。上品な夫人で彼の親切さや、礼儀正しさはお母さんのおかげかもしれません。「変な家でしょ?誰も来てくれないでしょ、こんなとこ。引っ越したらいいのにっていつも言っているんだけど」とお母さんが笑いながら私に言いました。この方となら家族としてやっていけると感じました。
嬉し恥ずかしの初夜
その日、お母さんが帰ってから私は和也さんのお家に泊まりました。私はこの年まで処女で彼も初めて。最初からうまくいくとは思っていませんでしたが、時間をかけて取り組んでいこうとなりました。最後までできなくてもスキンシップはいいものですね。お互いへの愛情が深まりました。
地元の神社で小さな挙式
私は訳あって、家族らしい家族がいないので、挙式は私と彼と彼のお母さんの三人で行いました。彼が住む家の近くの神社で、白無垢ではありませんが、きれいめな着物を着て写真も撮りました。
今度は二人で出雲に行こうと話しています。二人とも既に行ったことはあるけれど、改めて結婚のご挨拶をしようということになりました。写真をたくさん撮って、美味しいものを食べてこようと思います。
長すぎる一人の人生がようやく終わりました。夫婦とはいえ、死ぬまで一緒にいられるわけではないけれど、今二人でいるこの時間を大切にしようと思っています。
何事もご縁。身をゆだねて、目の前に起こることに感謝をし、真摯に向き合って生活していると、何かしらの形で幸せはおとずれるのだと感じる今日この頃です。