長すぎた婚活
今年で53歳になりますが、ついに先日入籍をしました。私にとっては初めての、彼にとっては二度目の結婚です。半年前までは自分が結婚しているなんて全く想像できませんでした。私は本当に本当に長い婚活をしてきたんです。
私は結婚願望が強いのに恋愛は下手、高校大学と彼氏無し歴を更新している冴えないタイプでした。社会人になってから、合コンや紹介で会った人とおつきあいしたりもしましたが、プロポーズに至らず。振られてばかり。何度も泣きました。
結婚紹介所での活動やお見合いもたくさんしました。相談所は何度か替えたので、登録料や紹介料代もかかりましたし、エステやお洋服、イメージアップ講座といった自分磨きにも投資して。稼ぎはほとんど婚活に消えていましたね。でも誰と結婚するのかは、人生を左右する一大事だと信じていたので手を抜くことも諦めることもできなかったのです。そして気がつけば50才代に突入していました。
婚活疲れの果てに行きついた心境
さすがに疲れました。50歳の誕生日を迎えるころには、「もう、よくない?結婚しなくても」という心境に。
でもすこぐ寂しくて。このまま孤独死するんだ・・・なんてネガティブな考えが頭をよぎるんです。
実は未婚を受け入れたら、もっと私は精神的に自由になるんじゃないかと思っていました。社会の枠や価値観を超越し、自分のライフスタイルを築いてやりたいことをエンジョイする私になれるんじゃないか、みたいな(笑)。メディアの影響だと思いますが・・・。
でも実際の私はただただむなしく寂しいだけ。その現実にショックを受けて。やっぱり一人は無理。私の人生には「男」が必要。そう思い直して。でも結婚は駄目だったから・・・それでふと「男友達」を作れないかな、と思ったんです。
唐突ですよね。おそらくこれもメディアの影響だと思いますが(笑)なんか素敵じゃないですか「男友達」って。気が合って、趣味も同じで、気兼ねなく本音が話せる男友達。そうやって世間をみてみると、今までノー眼中だった男性のことも視野に入ってくるようになりました。結婚にこだわるあまり、男性を「夫にふさわしいかどうか」という尺度だけでみてきたことに気がついたんです。私の男性観って恐ろしく狭いな、と。
たぶん結婚という夢に挫折して、新しい目標が必要になったこともありますね。一度立ち止まると、二度と動けなくなりそうで。男友達をみつけることが、私の新しい目標になりました。
マッチングアプリに登録
資金もつきていましたし、安く、気楽に人と出会えるマッチングアプリにチャレンジすることにしました。今まで「怖そう」というイメージを持っていたので避けていましたが、嫌な思いをしても大人ですし、自己責任でやればいいと思いました。たくさんの人に会えるのはやはり魅力です。
熟年向けのマッチングサービスを探して、二つ登録してみました。サイトのイメージ写真の女性がずいぶん若々しいおしゃれな女性で、「私はこんなに素敵ではないけど、大丈夫?」と秘かに心配になりましたけど。
写真が大事なのは、今までの活動で分かり切っていたので、気合を入れて用意しました。婚活の当初は(かれこれ20年ほど前・・・)きちんとプロのカメラマンに撮ってもらいましたが、最近はスマホで撮影してアプリで加工しています。少し肌色を明るくしたり・・・メイクアップモードも普通に使ってますよ。
趣味は映画鑑賞と野球観戦で登録をしました。野球はあるチームを子供の頃から応援しています。奥手で冴えない私が唯一男性と話せるネタです。
登録を終えて、自分から良さそうな男性を探してメッセージを送りました。男の人は新しいものが好き。「NEW」とか「新着」の表示がついている最初の段階で、積極的にアピールするようにしました。
いくつかあったお申込み
意外だったんですけど、3名の男性からお申込みというかメッセージをもらいました。69歳、65歳、58歳の方です。
全員に返信をしましたが、私の本命は58歳の方。大学野球をしていたスポーツマン。離婚歴のある方でしたが、明るい陽キャラな雰囲気がいいと思いました。それで会うことにしたんです。
会ってみて、好感触
彼はわりと有名な建設会社で住宅ホームの営業をしていました。自己紹介をするとすぐに「一応言わせて下さい。私は営業目的で女性には会ってはいませんから」といきなり言ったのには驚きつつも笑ってしまいました。こういう出会い系のアプリを商売に利用しようとする人も多いからでしょう。
なぜ私にメッセージをくれたのかたずねると、「私も〇〇チームファンだから」という嬉しいけれど、無難な回答。ご贔屓の野球チームが同じだったことを理由にあげていました。
実は野球、少し遠ざかっていました。ニュースで試合結果をみるくらい。以前は球場にも足を運んだし、贔屓の選手のグッズも買ったし、もっと盛り上がっていたんですけど、若い頃の話です。ただ、野球が好きなことに変わりはないので、彼との話は盛り上がりました。「こんなに野球の話ができる女性は、貴重っす」と褒めてくれました。いやいや、普通にたくさんいますよ、と謙遜しながらも少し自信になりました。
彼が独身になった理由
話していると、彼の携帯が鳴りました。「はいはい。ああ。分かりました。すぐ行きます。1時間くらいですかね」。仕事のようです。「すみません。先日下見にきたお客さんが来てるみたいで。行ってもいいですかね。申し訳ないですが、この穴埋めは必ずしますので」。
男性の穴埋めは半分くらいすっぽかされた経験があるのであまりあてにはしてはいませんでしたが、彼はきちんと後日連絡をくれました。改めてお昼ご飯をご一緒したんですが、彼が真剣な表情で言います。「こういう仕事なんで、家庭崩壊する人多いです」「単価が数千万円から億越えする場合もある個人のお客様なんで、とにかくお客様優先なんですよ」「営業してるやつが鬱になったりね。とくに若い奴はすぐ辞めちゃいます」「こういう事言うと、俺も古い人間になったな~と思いますけどね」。
彼が私に会う理由
「この仕事をしている連中のパートナーは、仕事に理解がある人じゃなきゃ駄目なんです。土日出勤だし、営業成績のプレッシャーもあるし、担当したお客様の家が、えー、例えば花火がキレイに見える家だったりすると、毎年花火に呼ばれたり。ずーっと家族でつきあいが続く場合もあるんで。そういうの苦手な女性もいるじゃないですか」私も決して得意な方ではないな、と思いながら聞いていると、「恵子さん(私のことです)は野球とか、世間話もできるし、そのお・・・一人でいても大丈夫な感じがしたんですけど、どうですかね?」おいおい、ストレートに聞いてくるな。「一人には慣れてる方かもしれません」彼は我が意を得た、という表情でニマっと笑いました。「でも必要なときにいい顔してくれるっつーか。悪い言い方だけど。そういう人がいちばん助かるわけですよ」と言って私を見るのです。
「お仕事楽しいですか」私が、たずねると「楽しいも楽しくないも、やるしかないですから。営業成績もありますし。俺もへこむ時はあります。でも色んな人に会えて面白い部分もありますね。デカイ契約とれた時とかはやったぜ~って感じですよ」
ゲットした「男友達」
彼のストレートで率直すぎる話しぶりに驚きつつも、妙な安心感を覚えている自分がいました。彼は要するに面倒くさくなく、都合の良い相手を探していて、私は有力候補らしい。私が候補になった理由は「世間話ができる」(自分ではそうかな?と思うけど。野球の話ができる=世間話ができる人、という図式が彼にはあるらしい)「一人でいても平気」の二つ。
私は寂しさを感じてアプリに登録したので、「一人でいても平気」かどうかは微妙だと思いましたが、言ってしまえば「男がいる」状況は、今までよりもずっといい。大きな前進です。ひるがえって、彼の今までのパートナーがどんな女性だったのか想像してみました。もしかしたら「常に誰かが自分を一番にしてくれなきゃダメ」なお姫様タイプの人だったのかもしれません。私は、まあ絶対に違いますね(笑)
彼とはご飯デート、野球観戦、ドライブなどをして会い続けました。明るい人なので一緒にいるのはけっこう楽しかったです。当初の目的である「男友達をつくる」を達成したと思いました。
何度かメッセージがピタリと来なくなりましたが、「まあ、忙しいんでしょ。放っておこう」「もともと男友達として会い始めた人だし」と余裕をもって対応できました。
彼に対してゆとりを持って接することができた理由は「男友達」というキーワードにフォーカスしたからだと思うんです。「結婚」の型にはまりすぎなかったことが、結果的に私を追い詰めなかったと思います。
そして結婚へ
結果的にプロポーズされて結婚しました。アプリに登録してから10か月くらい経ってからです。
彼は最初から「奥さんが欲しい」と考えていたそうです。一緒に暮らしはじめ、私が二人分の朝食と夕食を作っています。
彼には秘密にしていましたが、他の男性とやりとりしたこともありました。でも彼が一番「しっくり」くる人でした。これは理屈でななくて、完全に感覚的なものですね。相性です。
今回、私はすぐに相手をみつけました。今までは何だったの?と思うほどスムーズでした。きっと過去20年以上に渡る長すぎた婚活があったからだと思います。たくさんの人に会ってきたからこそ、「決め時」が分かったのだと思います。
仕事が忙しく、何かと携帯で呼び出される夫。でも時々「感じの良い奥さん」を演じる必要があるらしい(まだ経験していません)私の立場。自分でも地味ながらこんなにマトモな夫婦になるなんて、想像していませんでしたし、今は寂しくありません。
私の長すぎる婚活20年は無駄ではありませんでした。角度を変えて、あの手この手で幸せ探しを続けたことは無意味ではありませんでした。頑張ってきて良かったな、と心から思います。