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55歳で移住を決断!新天地で出逢った恋人とは。

55歳で移住を決断!新天地で出逢った恋人とは。

父が遺した土地 

 子供の自立(結婚)を機に、私と夫は離婚の話し合いを始めました。まだ成立したわけではありませんが、それぞれお互いの人生を好きに歩んで行こうという意見で一致はしています。

 私は父の遺産でしばらくはやっていくつもりです。貸しアパートが収入源ですが、それとは別に、父が人口減少が著しいある地方の田舎に土地を持っていたことを、亡くなってから知りました。

 祖父がその村の出身なので、祖父から引き継いでいたようです。その祖父は若い頃に上京し、東京で結婚して父をもうけたので、父自身は東京育ち。この土地には馴染みがなかったのではないでしょうか。

 でもとにかく、相続のこともあるし、娘である私と姉がその土地を見に行きました。弟もいますが、仕事が忙しいからと私たちに丸投げ。すごい田舎なので恐らく誰も住まないだろうな、と思いながら向かいました。祖父だって、父だって、結局帰らなかったド田舎なんですから。

N山村に魅せられて

 その村は、最寄りの駅から3時間も延々と山道を登って下って、ようやくたどり着くほど、山の中にありました。行くだけでも一苦労。携帯の電波も途切れがちで、私たちが役所の方と訪れたときは、住人がお年寄り2名という状況でした。

 父が相続した土地は山の斜面がほとんどでした。お米がとれるような場所じゃありません。焼き畑農業をしていたらしい、ということでした。生活は楽ではなかったことでしょう。

 しかし、景色が美しく、空気も清らかで、訪れたのは6月だったのですが、美しい藤棚が残されていました。だいぶ下っていくと川もあるそうで、蛍がみられるそうです。

 そして何といっても、その村は私の旧姓と同じ名前でした。地名もそうだし、住んでいる人たちも自分と同じ名前の人ばかり。東京育ちの私にはとても新鮮でした。ここが私のルーツなんだな、と感慨深いものがあり「いいとこだな。住みたいな」とつぶやいていました。

N山村の住人、N山さん

 そして本当に移住の決断をしました。我ながら一大決心をしたと思います。移住する前に、住む場所の確保など、生活の基盤を整えるため、N山村に通いました。その時にN山さんに会ったんです。

 私と同い年だというN山さんは、このN山村の出身の男性です。平日は町で会社員をしていて、家族も町で暮らしています。しかし週末になると、N山さんだけこの村に戻って来るのだとか。そういう生活をしている人が他にもいると教えてくれました。みんな故郷を守りたいという気持ちがあるそうです。

 N山さんは、私がこの村に住もうと考えていることをとても喜び、積極的にお手伝いをしてくれました。

 奥さんとは町で知り合い結婚し、ずっとそこで暮らしてきたN山さん。ご自身のご両親が亡くなって、自分が育った家や村が朽ちていく様子に心を痛め、退職後はこの村に戻ってきたいと考えているそうです。

 しかし奥さんは反対。年をとってからの山の生活は大変だし心配だという、当然のお考えでした。でもN山さんの気持ちは変わっていません。

N山さんと私

 私にはN山さんの気持ちがよくわかりました。私たちの状況は似ていました。私がN山に移住すると言った時の家族の反応も似たようなものでした。完全に引かれていましたね。

 でも55歳ですよ?好きなことができる最後のチャンスだと思ったんです。一生N山にいるかどうかは分かりませんが、今ここに住みたいという場所があり、それが実現できそうなら、住んでみるべきではありませんか。

 あまりいい反応をもらっていない私の境遇を心配して、N山さんは私の親族にあたる一家のことも調べてくれました。私を励ますつもりだったのだと思います。

 そうしたらまだ村に残っている90代の住人さんが、私の父のことを知っていたんです。会ったことがあると。大変驚きました。父は生きていれば85歳ですが、戦中この村に疎開していたそうです。子供である私は全然知りませんでした。N山さんと肩をたたきあって喜びました。

N山さんとの一夜

55歳で移住を決断!新天地で出逢った恋人とは。

 移住の準備は着々と進み、住む場所も確保できました。その家に私が泊ったある夜、激しい雨が降って停電したんです。停電なんて東日本大震災の計画停電以来でした。東京と違うのは、本当に真っ暗になることです。さすがの私も恐ろしくて、動けませんでした。

 そうしたら戸を叩く音がして、N山さんが来てくれたのが分かりました。私が戸まで這っていき、引き戸をあけると、カッパを着たN山さんが立っていて「懐中電灯なかったやろう」と声をかけてくれました。

 この時ほど男性の存在を頼もしく思ったことはありません。私は「明日までいて下さいよ」と懇願しました。「ええよええよ。女の人を一人にはできんって」とN山さんは笑っていました。私はすっかり私を救いに来たN山王子に恋をした気分でした。

 私たちは暗い部屋で一夜を過ごしました。そしてなんとなく、そういう雰囲気になって暗闇の中で関係をもってしまったんです。夫のことも子供のことも一切思い出しませんでした。一人の女でしたね。後悔していません。

新しい生活

 私は夫と協議離婚の話し合いを続けています。N山さんは奥さんと別れる勇気はないそうです。正直ですね。だから、秘密の関係です。どうせ人影もまばらな過疎地域。気楽にやっています。

 毎日何時間も草むしりをします。N山さんが週末に来た時も、一緒に草むしりをします。自然のパワーをたくさん浴びながら、生きています。

 この先どうなるかは分からないことだらけですが、私は新しい生活に女としても人としても幸福を感じています。住む場所が変わったからではなく、自分で決断したから人生が変わったんだと思います。勇気を出してここにきて良かったと、心から思っています。

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